
「結婚式を挙げたかったけれど、叶わなかった――。」
経済的な理由、家族の事情、コロナ禍など、さまざまな背景から“その日”を迎えられなかった夫婦は少なくありません。人生の節目となるはずだった結婚式を諦めたまま、時間だけが過ぎていく――そんな現実があります。
そんな中、「ワケあって結婚式を挙げられていないご夫婦へ、結婚式をプレゼントしたい」と立ち上がったのが、愛知芸術高等専修学校ファッション・ビューティーコースの生徒たちです。卒業制作として取り組んだのは、その名も「ちょっとワケありブライダル」。事情があって結婚式を挙げられなかった夫婦に寄り添い、一から式をプランニングし、実際に形にするという前例のない挑戦です。
ヘアメイク、演出、進行――すべてを高校生自身が考え、試行錯誤を重ねながらつくり上げた“唯一無二の結婚式”。そこには技術だけではなく、人の想いに向き合う姿勢と、本気で誰かの幸せを願う気持ちが込められていました。
今回、プロジェクトをやり遂げ、卒業したばかりの生徒と担当の先生にインタビューを実施。なぜこのテーマに挑んだのか、どんな困難を乗り越えたのか、そしてこの経験が生徒たちに何をもたらしたのか――“人の人生に寄り添う学び”のリアルに迫ります。
愛知芸術高等専修学校の卒業制作「ちょっとワケありブライダル」とは
愛知芸術高等専修学校のファッション・ビューティーコースで行われた卒業制作「ちょっとワケありブライダル」は、事情があって結婚式を挙げられなかった夫婦に向けて、高校生が本物の結婚式をプロデュースする実践型プロジェクトです。
参加するのは、ファッションや美容を学ぶ3年生たち。ヘアメイクや衣装の一部、演出、進行に至るまで、結婚式のすべてを生徒自身が主体となって企画・制作し、一つの式をゼロから創り上げていきます。
この取り組みは単なる授業の枠を超え、地域と連携した社会貢献プロジェクトとしても位置づけられています。結婚式を挙げられなかった背景に寄り添いながら、「人生の節目を取り戻す」という大きな役割を担うこの企画は、まさに“人の人生に関わる学び”そのものです。
技術だけでなく、相手の想いをくみ取り、形にする力が求められるこの卒業制作。なぜ高校生がここまでのプロジェクトに挑むのか――その背景には、同校が掲げる“実際の現場に近い経験を通して学ぶ教育”という大きな理念があります。
なぜこのテーマに?
「どうして“結婚式を挙げられなかった夫婦”をテーマにしたのか」――この問いの背景には、生徒たち自身の気づきと、社会の中にある見えにくい現実への関心がありました。
結婚式は、多くの人にとって人生の大切な節目となるイベントです。しかし実際には、経済的な事情や家庭環境、コロナ禍の影響など、さまざまな理由でその機会を持てなかった夫婦がいることを、生徒たちは学びの中で知ります。「本当はやりたかった」という想いがありながらも、それを叶えられなかった人たちがいる――その事実が、このプロジェクトの出発点となりました。
ファッションや美容を学ぶ中で、「人を美しくすること」だけでなく、「その人の人生にどう関われるのか」を考える機会が増えていったことも大きなきっかけです。衣装やヘアメイクは、ただ見た目を整えるものではなく、その人の気持ちを前向きにし、特別な一日を彩る大切な要素。だからこそ、“結婚式をもう一度届ける”というテーマは、自分たちの学びを最大限に生かせる挑戦でもありました。
また、指導する先生の中にも、「技術だけで終わらない学びを経験してほしい」という想いがありました。誰かの事情に寄り添い、その人のために考え抜くこと。正解のない中で答えを探し続けること。そうした経験こそが、これから社会に出ていく生徒たちにとって大きな力になると考えられています。
“ちょっとワケありブライダル”というテーマは、単に珍しい企画だから選ばれたのではありません。人の人生に向き合い、誰かの「叶えられなかった想い」に本気で応えようとする――そんな強い意志と学びの姿勢から生まれた、必然のテーマだったのです。
生徒・先生の想い
「誰かのために、ここまで本気になったのは初めてかもしれない」――。
インタビューの中で、卒業したばかりの生徒がそう振り返ります。
“ちょっとワケありブライダル”は、ただの授業課題ではありません。目の前には、実際に結婚式を挙げられなかった夫婦がいて、その人生や想いに直接向き合う必要があります。だからこそ生徒たちは、「きれいに仕上げる」だけでは足りない難しさを感じていました。相手がどんな時間を過ごしてきたのか、どんな結婚式を望んでいるのか――何度も話を重ね、細かな希望をくみ取りながら、少しずつ形にしていきます。
「正解がないのが一番難しかった」という声もありました。決められた答えがあるわけではなく、自分たちで考え、選び、責任を持って提案していく。その一つひとつの判断が、相手の大切な一日に直結するからこそ、プレッシャーも小さくはありません。それでも、「やるからには絶対に喜んでもらいたい」という気持ちが、生徒たちを支えていました。
一方で、担当の先生は少し距離を取りながら、生徒たちの挑戦を見守ります。「手を出せば簡単にできてしまうこともあるけれど、それでは意味がない」と語るように、あえて任せることで、生徒自身が悩み、考え、乗り越えるプロセスを大切にしていました。
「人に寄り添う力は、教科書だけでは身につかない」。このプロジェクトには、技術以上の学びが詰まっています。誰かの背景を想像し、その人の立場で考え、行動すること。その積み重ねが、生徒たちの表情や言葉に、確かな変化として表れていました。
結婚式をつくるという一つの目標の先にあったのは、「人の幸せに本気で向き合う経験」。生徒と先生、それぞれの想いが重なり合い、この“ちょっとワケありブライダル”という特別なプロジェクトは形づくられていったのです。
ゼロから結婚式をつくる-高校生たちの挑戦
結婚式を一からつくり上げる――それは、プロの現場でも多くの人と時間をかけて進める大きなプロジェクトです。会場の選定やコンセプト設計、衣装やヘアメイク、演出、当日の進行に至るまで、どれ一つ欠けても成り立ちません。
“ちょっとワケありブライダル”では、そのすべてを高校生たちが担います。限られた時間の中で、チームで役割を分担しながら、何もない状態から結婚式を形にしていく――まさにゼロからの挑戦です。
理想と現実のギャップに悩み、何度も意見を交換し合いました。それでも、生徒たちは「目の前の夫婦にとって最高の一日を届けたい」という想いを胸に、一つひとつの課題と向き合っていきます。ここからは、そんな高校生たちのリアルな挑戦の過程を追っていきます。
幼い頃からの“好き”が進路に-美容の道を選んだ理由
今回インタビューに協力してくれたのは、この春卒業したばかりの生徒。ファッションや美容への興味は、幼稚園の頃からすでに芽生えていたといいます。もともと洋服が好きで、中学生になるとメイクやネイルにも関心が広がり、自分で楽しむようになりました。
そうした経験を重ねる中で、「将来は美容に関わる仕事がしたい」と自然と思うようになったといいます。早い段階で進路を見据え、「しっかり学べる環境に行きたい」という想いから、美容を専門的に学べる高校への進学を決意しました。
自由な校風と人の温かさが決め手に
数ある学校の中から愛知芸術高等専修学校を選んだ理由は、「自分らしさを伸ばせる環境」でした。
自由で個性を大切にしてくれる校風が自分に合っていると感じたこと、そして先生と生徒の距離が近く、温かい雰囲気が伝わってきたことも大きな決め手だったといいます。実際に入学してからも、その印象は変わらず、安心して学べる環境の中で自分の好きなことに向き合うことができました。
想像以上の難しさ-“ちょっとワケありブライダル”に挑んで
実際に取り組んだ“ちょっとワケありブライダル”については、「とにかく難しかった」と率直に振り返ります。
これまで結婚式に参列した経験が少なく、最初は何をどうすればよいのかイメージすることすら難しかったといいます。さらに、新郎新婦からは「アットホームな式にしたい」という要望があり、その理想を具体的な形に落とし込むことにも苦労しました。
「なんとなくのイメージ」はあっても、それを実際の演出として成立させるには多くの工夫が必要です。ゼロから考える難しさを、身をもって実感する経験となりました。
チームでつくる難しさ-意見を一つにまとめるまで
準備期間の中で特に大変だったのは、アイデアを一つに絞ることでした。
「アットホームな式」にするための演出については、チーム内でさまざまな意見が出たといいます。どれも魅力的に感じる中で、「どれを選ぶのか」「どう形にするのか」を決めるのは簡単ではありませんでした。
一人で進めるのではなく、チームで一つのものをつくり上げるからこその難しさ。それでも話し合いを重ねながら、全員が納得できる形を探し続けました。
“アットホーム”と“きちんと感”の両立へのこだわり
今回の結婚式は、形式にとらわれない「シビルウェディング」。だからこそ、“アットホームな雰囲気”と同時に、“結婚式らしいきちんと感”も大切にしたいと考えました。
しかし、この2つを両立させることは簡単ではありません。カジュアルになりすぎず、それでいて温かみのある空間をどうつくるか――細部まで悩みながら工夫を重ねていきました。
リングピローやネイルチップといった小物にもこだわり、一つひとつ生徒たちの手で制作。見えにくい部分にも気持ちを込めることで、式全体の完成度を高めていきました。
「やってよかった」卒業生が語るリアルな学びと成長
「大変だったけど、やってよかった」――。
プロジェクトを終えた卒業生の言葉には、達成感と確かな手応えがにじんでいました。
“ちょっとワケありブライダル”は、華やかな結婚式の裏側にある地道な準備や、答えのない課題と向き合い続ける経験の連続です。思い通りにいかないことや悩む場面も多かったからこそ、一つひとつを乗り越える中で、自分自身の成長を実感することができたといいます。
技術だけではなく、人と向き合う力や考え抜く力、そしてチームで何かをつくり上げる難しさと面白さ――。この卒業制作で得た学びは、これからの進路や人生にもつながっていきます。
ここでは、卒業生自身の言葉から見えてきた“リアルな成長”に迫ります。
正解がないからこそ成長できた-現場で学んだ“考える力”
今回の“ちょっとワケありブライダル”で印象的だったのは、「正解がない中で考え続ける力」が身についたことです。
新郎新婦からの「アットホームな式にしたい」という想いをどう形にするか――その答えは一つではなく、生徒たちは話し合いを重ねながら、自分たちなりの最適解を探していきました。結婚式の経験が少ない中でのスタートでしたが、試行錯誤を重ねることで、少しずつイメージを具体化していきます。
また、「アットホームさ」と「きちんと感」を両立させる工夫や、演出を一つに絞る判断など、すべてが自分たちで考えるからこその学びでした。リングピローやネイルチップといった細部にもこだわり、「どうすれば喜んでもらえるか」を考え続けた経験は、大きな自信につながっています。
正解がないからこそ、自分たちで答えをつくる。その積み重ねが、“考える力”として確かな成長をもたらしていました。
先輩からのバトン-今年らしい結婚式のかたち
昨年の卒業制作も事前に見ていたといいます。大曽根商店街で行われた前回の結婚式は、新郎新婦が歌を披露するなど、にぎやかで活気のある雰囲気が印象的でした。
それに対して今年は、ガーデンウェディングというスタイルを選択。かわいらしさと明るさを大切にしながら、昨年とはまた違った魅力のある結婚式に仕上がったと感じています。
先輩たちの取り組みを参考にしつつも、自分たちらしい形を追求する――その積み重ねが、この年ならではの一日を生み出していました。
人の人生に寄り添う学びとは?先生から見た教育の価値
“ちょっとワケありブライダル”を通して生徒たちが得たものは、技術や知識だけではありません。では、このプロジェクトを見守ってきた先生の目には、生徒たちのどのような変化が映っていたのでしょうか。
人の想いに寄り添い、正解のない課題に向き合いながら、一つの形をつくり上げていく経験――そこには、教科書だけでは学べない大切な学びが詰まっています。ここでは、先生の視点から見たこの取り組みの価値と、生徒たちの成長について迫ります。
新郎新婦の笑顔がすべて-大盛況で終えた今年のブライダル
今年の“ちょっとワケありブライダル”について、先生は「新郎新婦がとても喜んでくれたことが何より」と振り返ります。
半年という準備期間の中で、生徒たちは何度も新郎新婦と打ち合わせを重ねながら、一つの結婚式をつくり上げていきました。細かな要望に耳を傾け、想いをくみ取りながら形にしていく――その積み重ねが、当日の満足度につながりました。
プロデュースから当日の運営までやり遂げた生徒たちの姿に、先生も「本当によく頑張った」と手応えを感じています。
シビルウェディングという挑戦-“結婚式の意味”と向き合う
今年の大きな特徴の一つが、「シビルウェディング」という形式を取り入れたことでした。
結婚式は人生の節目となる神聖なもの。その本質としっかり向き合うため、婚姻の成立を大切にした進行を意識したといいます。ただ華やかに演出するだけではなく、「結婚とは何か」を考えながら式をつくる――これまでよりも一歩踏み込んだ挑戦でした。
その分、求められる責任も大きくなりましたが、生徒たちは一つひとつ丁寧に向き合い、結婚式としての重みを大切にしながら形にしていきました。
初めての連続の中で身についた“現場対応力”
準備期間中、生徒たちは役割ごとにチームに分かれ、それぞれの分野で結婚式づくりに取り組みました。
新郎新婦との直接のやり取りや、お花の制作など、ほとんどが初めての経験。それでも、一つずつ挑戦しながら、現場で求められる対応力を身につけていったといいます。
予想通りにいかない場面でも、その都度考え、柔軟に対応していく力――先生は、「こうした経験こそが大きな成長につながっている」と感じています。
現場で学ぶからこそ身につく力-愛知芸術高等専修学校の強み
愛知芸術高等専修学校の魅力について、先生は「実践的な学びの多さ」を挙げます。
プロの講師から直接指導を受けられる環境の中で、技術を身につけることはもちろん、現場のリアルな話を聞ける機会が多いことも大きな特徴です。さらに、今回のように実際のプロジェクトに関わることで、教室の中だけでは得られない経験を積むことができます。
知識や技術だけでなく、“現場で通用する力”を育てる――その積み重ねが、生徒たちの将来につながっていきます。
“誰かのために本気になる”卒業制作が教えてくれること
「ちょっとワケありブライダル」は、結婚式をつくるプロジェクトであると同時に、“人の人生に寄り添う”ことの大切さを学ぶ場でもありました。
正解のない課題に向き合い、相手の想いをくみ取りながら形にしていく。その過程で生徒たちは、技術だけではない力――考える力や伝える力、そして誰かのために本気になる姿勢を身につけていきました。半年間の積み重ねの先にあったのは、新郎新婦の笑顔と、「やってよかった」という確かな実感です。
進路を考える中学生や保護者にとって、「その学校でどんなことを学べるか」は大きな関心事の一つでしょう。愛知芸術高等専修学校のように、実際の現場に近い経験を通して学べる環境は、自分の将来を具体的に描くきっかけになります。
誰かの幸せのために、本気で考え、行動する――。そんな経験ができる学びの場があることを、この卒業制作は教えてくれました。
「芸高グループ」とは
芸高グループは、学校法人恭敬学園が運営する北海道芸術高等学校をはじめとする、以下5つの学校(6つのキャンパス)で構成される、芸術分野の専門性に特化した学校です。
<芸高グループ>
北海道芸術高等学校
札幌サテライトキャンパス
東京池袋サテライトキャンパス
福岡芸術高等学校
東北芸術高等専修学校
横浜芸術高等専修学校
愛知芸術高等専修学校
ファッションやネイルの勉強ができるファッション・ビューティコースは全てのキャンパスに設置されています。未経験でも初心者でも、自信がなくても大丈夫。「美容が好き、美容に関する仕事に就きたい」という気持ちを重視しています。中学校卒業以上であれば入学に年齢制限はなく、いつでも転入学・編入学可能です。中学校卒業後の一般的な4月の入学のほか、現在高校に通っている人も高校を退学した人も、転入学・編入学できます。
6つのキャンパスのうち3つに関しては高等専修学校ですが、北海道芸術高等学校(通信制高校)とのダブルスクール制度を採用することで、全日制と同様の高校卒業資格の取得も可能となっています。そのため、進路の選択肢も広がっていますので、心置きなく今やりたいことに熱中できます。ネイル好きの仲間たちと切磋琢磨し、若い感性を存分に伸ばせる場所です。
芸高グループについてや、美容業界を目指して中学生からできることなどを解説していますので、ぜひ以下の記事もご覧ください。
好きなことだからがんばれる、一緒に歩んでくれる先生や仲間がいる。
芸高グループは、一人ひとりの個性や夢を応援してくれる場所です。
参照:北海道芸術高等学校 https://www.kyokei.ac.jp/
愛知芸術高等専修学校 https://aigei.kyokei.ac.jp/
※本サイトは、芸高グループの生徒や先生にインタビューを行う機会をいただき、独自取材の記事で芸高グループを応援する個人運営サイトです。
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